バラの浅植について一言 原田民雄
昭和57年/1982 掲載
6月12日御承知の通り九州山ロバラ懇和会が山の上ホテルであった。 其の席で熊本バラ会のリーダー福島康宏氏から熊本式浅植の所見発表の講演があった。非常に有意義な話で、其の長所はたしかに学ぶものがあると思ったが、しかし私は此の浅植に対してかねて幾多のギモンの点もあると感じて居た。
質問の時間に直ちに其のギモンの点で、良い点もあるが悪い点もあると意見を述べた。福島氏は、「自分は浅植ばかりしかやって居ないので、比較対照はわかりません」 と、あっさりかわされた。
所が宇部の御大、原田会長が立たれて、 「それは育てる本人が下手だからだ。」と、あっさり片づけられて、私は会場の大失笑を買い、たいしてありもしないプライドを、大いに傷つけられてしまった。恥かしくて私は一言も無く、シュンとしてうつむいてしまっ た。穴があったら這入りたかったが一流ホテルの会場には穴などあろうはずもなく只々、軽々しく自分の意見発表をしたのを悔ゆるばかりだった。
しかしである。私は自分が下手と云われても一言も無いが、下手作らも私も福岡バラ会で一応はA級で外の上手な方々と競い合って居る以上、之は福岡バラ会が下手だと侮辱された様な気がして、皆さんに申し訳無い気持の方が強かった。 原田会長に云わしむれば、それは単に植え方だけの事を云ったんだと云われるかも知れないが、其の下手に植へた樹を育てて持って行った花をコンテストに競う以上、下手の続きであるはずである。其の私の花に負けた人はどうなる。下手の又下手と云う事に成るでは無いだろうか。 事、おおやけの席での話である。私は悲しかった。之は福岡バラ会への侮辱である。今後は、こうゆう種類の質問、いや、会場の発言など絶対に謹むべきだと心に誓った。だからと云って、原田会長に、とやかく、うらみがましく反感を持ったと云う訳では無い。私が下手と云う事は厳然たる事実であるからである。今後とも師匠としてバラを作る限り永遠に御指導を仰き度いと思って居る。 それはそれとして、私は私なりに浅植についてのギモンの点を、一応此に申し述べて福岡バラ会の方々に正しい御判断を仰ぎ度い。
去る事7、8年前私は家内と2人で熊本バラ会の指導者、 若手、新進の方々のバラ園を、福島氏の愛車で今は亡き福島氏の永遠の恋人である彼女と4人で見て廻った事がある。其の頃既に熊本バラ会の浅植作りが少し噂り上りかけた頃で、私達夫婦も之が実際に見たくて来たのである。
5、6軒見て歩く内に私はトコロテン押し器から押し出されるトコロテンを想い出した。 経験年数の差、手入れの差こそあれ、皆一様に、それこそ右へ習への同じ型の植へ方である。距離間隔から浅植の仕方も同じなら横に寝せて居る樹の副木の支柱の間隔まで同じで、ネズミは這入っ行けても猫は這入れないと云う寸法で、皆同じ様に仕立てある。
すべてのバラ園が、押し出し器から出されるトコロテンと同じ様な一つ型にはまって居た。我が福岡バラ会の様に、それぞれ違った個性豊かな?バラ園で上手もあれば下手もあると云うバラエティは無い。
しかし断って置くが此の熊本方式の同一規格が決して悪いと云う様なおこがましい事を云って居る訳では無い、 皆が最上の方法として一致して此の方法を選んで居るのだったら、何をか云わんやである。
お手々つないで 此の道行けば
皆んなきれいなお花が咲くよ
晴れたみ空にバラが咲く
と、ちょっと私は童心に還り、小学唱歌の「お手々つないで」を想い出しただけの事である。
其の証拠に熊本バラ会は優秀でいづれのバラ展でも各種の賞をかっぱらって行って居る。只其の浅植の根が太い根はともかくかなりの細い根も地上10センチ。場合に依ってはそれ以上に出て居るのを見て驚いた。と同時に疑問を感じたが、それはそれなりに生育又花が良ければ良いのである。
早速其の年の冬の植付時期から我が家の既存のバラも約半分程は一応樹を倒して其の下に杭を打ち込んで根が沈まない様、深植に成らない様に此の杭の上に乗せて浅植にして見た。又鉢に仕立て居た大苗も露地へおろす時には、ほとんど熊本式の浅植にやって見た。ところがやり方が悪かったのだろうか、浅植にしたのは、5月から先のシュートの出が悪くて困った。其の年はほとんど植替えに近いのだから、まあ、まあ、として、2年目以降の樹の立直った状態に成ってもやはりシュートの出が、普通の植方より我が家では悪いのである。之は外の大苗、新苗も、普通の植え方の方がシュートの出が良い。
それで自分なりに此の落花生頭を絞って其の原因を考へた。 以下其の原因調査と浅植の欠点を6年近く私なりに記録した報告である。 尚長所は福島氏が報告されて居るので略する。ほんとうは長所の方が、ぐんと多いのだろうけれども ......。
- 此の頃から自分の多肥に気付き、基肥追肥共に従来の3分の2程度に少くしたのが、シュートの出を悪くしたのか? それでも普通の植方にはそう響かなかった。
- 浅植にする場合、根が2センチから3センチ位い見える程度に植へたが、強い雨が度々降ると、根が洗い出されて太い根は無論の事、かなり細い根でも10センチ以上地上に出る様に成る事。
- 例へ強い支柱を立てて居ても、夏期は防風ネットは外すので普通の植方より根元のゆれ方が強くそれが前頂の根の露出につながる事に重複する。
- 利点で有るガン腫病も地上に出るのが大部分とは云へ地下にかくれて居る部分にも良く出る事があり、かえって安心して見落す事がある。
- シュートの出が浅植にして2年以上たっと(私が家では3年以上かかったのもある)普通の植方と変らない様に出ると云う事は其の間に充分に根が地下に這入り、 普通の植方と変らなく成ったと云う事では無いだろうか?
- 之は偶然の事かも知れないが(私もそう信じ度い)私の場合は浅植の方がガン腫にかかる率が多い。と書いたら、それは浅植の方が発見し易いからだと云う意見が多いと思うが、そこは毎年抜かり無く全部の樹を調べて居る。此処数年急激にガン腫病にかかる樹が多くなっ た。特に浅植の樹が多い。逆説かも知れないが近頃では地表に出た根よりも地下へ埋もれて居る根の方が、地下のバクテリヤ菌等が癌腫発病を防いで呉れて居るのでは無いだろうかとさえ思う様に成って来た。
- 特に植へ込んで2年以内ほどの浅植は乾燥に弱い様な気がする。夏から初秋にかけて乾燥が続くと、何となく、外の樹よりも精気が無いので根元のマルチングをそっと外して見ると、根が10センチ以上地上に出て居る。 あわてて土をかぶせて水をやると精気を取り戻す。
- 福島氏が云う様に(聞き間違いかも知れないが)骨粉を1本の元肥に700g、800gをやると云われるが、 それに相応の油粕等もやられる事だろうと思うが、我が家の土質状態から考へれば、とてもそんなに元肥はやれない、やれば筍の様なシュートが出るだけだ。
- 浅植の樹にはナメクジや蟻が這い上り易いのか、普通の植へ方より余計に上って来る。 したがって、ナメクジはとにかくとして、蟻は油虫を媒介すると云われるが、此の浅植の木から油虫の発生が始まる。よく根元を見ると浅植の木の方が雨風は当った故か根がつるつるして登り易い様だ。ナメクジだってだって山有り谷有りの道よりも、平坦な道の方が登り易いのだろう。
- 浅植の方が強い雨が降った後に強い陽が射した時は下葉が黄色く成り落葉し易い。 之も品種にも依ると反論が有ると思うが、我が家では同一品種でも此の結果が出て居る。
以上まだまだ長所も有るが欠点も浅植には有ると私は思う。 下手は下手なりに6、7年の歳月をかけて調査しての発言である。「それは下手だから」の一言のもとで片づけられては今後の懇和会での質問はする気をなくす。無論私はもう質問なんかこりごりだ。だって、わからないなら、わからないで黙って居た方が会場の失笑を浴びるよりずっとましだもの。