バラ狂通信訪問 石井 強 氏
平成5年/1993 No.7 掲載
編集部の新しい試みとして、手紙のやり取りによって 全国的に著名なバラ愛培家を紹介することにした。題して「バラ狂通信訪問」。石井氏は定年退職される迄永年JRに務められた。その間35年余りにわたり、バラ作りに熱中された。実生、接木ウィーピングスタンダード、ミニのツルをベースとした懸崖作りはあまりにも有名で、関東地区バラ展では鉢作りの懸崖、スタンダードを常時出品され、来訪者をとりこにしている。また氏の強みは奥様もされること。留守のときは勿論、数年前胃潰瘍で手術されたときも奥様が全部世話をされたという。H.Tのコンテストにも勿論常時上位入賞の猛者で、最も新しいところでは、先年の福山市での全国展で、武州で1本花、試作苗の2部門で2冠をかっさらわれた。文字通り何でもござれの武士である。
奥様の内助の功あるにせよ約200坪といわれる広い敷地での永年にわたりバラ栽培をして来られた情熱には鬼気迫るものがある。
前略 関東ばら展たけなわの時期となったようですが、花の出来は如何でしょうか。今年は霜害のため、私のばらは満1ヶ月遅れることになりましたが、今年はガーデ ン・パーティ、レディラックといったところに凄いのが見られ、ますます、オジケづいてしまったようです。さて、先日、電話にてお伺いした件については、下記の項目を考えています。勿論随意にテーマを変えられても結構ですのでよろしく御願い致します。
- お宅の位置(JR駅、線名、ルート)
- 気候条件、気温、温度、風、施設 or not
- 地形、地質
- .植え床の条件、有機質、肥料のくれ方
- 耕土の深さ、排水
- 始めた頃、いつから、動機、何を作っていたか
- 現在栽培の数、種類、面積
- 影響を受けた人(師匠)
- 現在特に念じている品種について
- カリの補い方?
- 鉢作りの仕方、質問の栽培スケジュール、培土、肥料、鉢の大きさetc
- 新しい品種5種とその栽培感想
- 土による栽培の特性ありや
ディオールは赤土、武州も赤土、しかしあけぼのは鈍い - 品種特性に合わせて、特にどんなことをやっているか
- ビッグチーフは九州向きでない、その理由
- メルヘンケーニギンについて
- 最近パーフェクタは良いのを見ませんが
- 話はちょっと飛びますが、野ばらの台本についてお話し下さい。
- メルヘンケーニギンなど良い色を出すにはカニナの台木じゃないとダメということですが。
- ミニのツルをベースとした懸崖作り(写真)について、手がいりますか?
- 設問11の答えに本葉3枚の上をピンチして咲かせるとありますが。開花タイミングは遅れませんか。
またハウスは暖房入れるのですか。 - ウィービングスタンダードや懸崖などどのように運搬するのですか?
- どのくらい日持ちしますか。ふつうのHTだとせいぜい2~3日ですが。
- 懸崖やウィーピングスタンダードのできるのはどんな品種がありますか。
- 写真(近影)と最近の作品、写真各2枚。
拝啓 うっとうしい季節となりました。梅雨の合間に時折顔を見せる太陽はいやが上にも暑く、雨間の作業も思わず手を休ませてしまいます。
扨、今春のばらの出来はこちらでも同様、暖冬の続いた後の春の冷え込み、このため開花期が遅れ、また遅れた分開花期の温度が上昇したためか、花芯の上がらないもの、ゆがんでいるものが多く良花が少なかったようです。
この気候にも影響されにくかったのか、僅かにガーデ ン・パーティ、メルヘンケーニギン、ビッグチーフ、武州、に良花がみられました程度でした。
今期は印象に残るような良いものはありません。このところ三年位、変な陽気が続いていると私は思って居ります。勿論春秋、共です。
お尋ねの本題に入りますが、設問の順にお答えして参 りたいと思います。
1. お宅の位置(JR駅、線名、ルート)
私の家は、JR、東北本線(宇都宮線) 久喜駅下車、所要時間は、上野から50分、西口から徒歩5分位のところです。
2. 気候条件、気温、温度、風、施設 or not
気温は関東の中間に位置しますので、寒いときは霜柱が5cm位になるときもあります。周囲に建造物が多く、ばら園も2mの高さのブロック塀で囲ってあります。従って無風状態の日は温度・湿度は上がります。
設備は、19mmと22mmのパイプハウス4棟、うち1棟は鉢植え専用です。風害は、台風でも今迄に被害を受けたことはありません。が、長雨が続くと花が腐ってしまいます。
3. 地形、地質
間口が狭く西から東へ細長く奥が深い土質は元田圃を埋立した場所で、1m位は荒木田土ですが、その下、元の土は関東ローム層に近い黒色の土で、その下を掘り下げると関東ローム層となります。
4. 植え床の条件、有機質、肥料のくれ方
5. 耕土の深さ
田の埋立地ですから1m位のうちに堅い層が2段あり、大雨のときは堅いところで一旦水が滞ってしまい、ベットの中が田圃のようになります。高うねつくりすると逆に乾燥期には水やりが大変です。堅い部分を全体に亘り機械(ユンボー)で耕起するのが望ましいのですが、解って居ても、大金を投じて耕起したところで、先行き何年続けられるかと思い断念して居ります。
肥料は有機質(骨粉・油粕・米糠・くん炭、等)で、冬の元肥は約40cm堀割状に掘って施します。秋は8月に米糠を全体にばら播いてかびが出ましたら その上にくん炭を全体に播いて9月に5cm位の深さに全体を裏返します。
6. 始めた頃、いつから、動機、何を作っていたか
始めたのは、昭和31年春からです。動機は家を新築したので感心の深かったばらをと思ったので、それに父親が植木好きで、盆栽やら菊やら、ばらも昭和10年頃から植えて居りましたので感化されていたのでしょうか?
品種は、ピース、チガーヌ、ボンヌイ、コンフィ ダンス、エナハークネス、ブランシュマルラン、ハッピネス、ジョセフィンブルース、トンガ等々でした。
7. 現在栽培の数、種類、面積
鉢植、H.T種約70鉢、ミニチュア、約1000鉢、スタンダード100鉢以上、露地植え200。(この中でコンテスト用のものは半数以下です)。面積は約200坪。
8. 影響を受けた人(師匠)
特に居りません。
9. 現在特に念じている品種について
抗病性の強い、花壇・コンテスト・どちらにも向く品種で欲を言えば春も秋も良く咲く品種と思っています。
10. カリの補い方?
籾殻のくん炭を自分で作ります。水をかけずに少しつ広げて消したものを寒肥のときと、秋に設問4に記したようにやっています。
11. 鉢作りの仕方、質問の栽培スケジュール、培土、肥料、鉢の大きさetc
鉢作りは12月に株の大きさにより6号、又は7号鉢に植え替え、ビニールハウスへ入れて置きます。3 月上旬に本葉3枚の上でピンチして咲かせます。1 鉢で2本か3本に制限し、肥料は月1回鉢の上に置きます。花が終わった順に2回り大きい鉢に替え秋に備えます。スタンダードのように特に大きな鉢は鉢替は要りません。
12. 新しい品種5種とその栽培感想
新品種は評判の良いものを植えるようにしていますので、改めてここに取り上げるものはありません。
13. 土による栽培の特性ありやディオールは赤土、武州も赤土、しかしあけぼのは鈍い
土による特性はあると言えます。荒木田土はピンク系が良く、関東ローム層では黄色が色が良く出るようで、ガーパー・あけぼの等は黄色が美しくでますが、荒木田では白っぽくなりよくありません。ヴィオレも荒木田が良い。
14. 品種特性に合わせて、特にどんなことをやっている?
私のところは一応荒木田土ですから赤土の方が良い品種は赤土を使用して鉢作りをして居ります。
15. ビッグチーフは九州向きでない、その理由
はっきりしたことは言えませんが、しゃ光しないと焼ける品種ですから関東地方よりも、しゃ光(%)を多くしたら如何なものでしょうか。
16. メルヘンケーニギンについて
花は非常に良い花だと思いますが、花から下のヒゲ葉がありその下に3枚葉が多く、良く出来ると50cm以内に5枚葉が3枚着かないものが多く、花と木のバランスが悪く、2輪・3輪・5輪と活けた場合花の下が、がら空きのように見え、さびしいような涼しいような妙な、どうにも不格好ですね。庭で咲かせると椀状になり私はあまり好きではありません。でもあの色が良いのかコンテストに強い。(関東では)
17. 最近パーフェクタは良いのを見ませんが
パーフェクタは、全盛期の頃と今では大気の変化、汚染、温度と湿度、色々微妙な変化によるものと思って居ります。
18. 話はちょっと飛びますが、野ばらの台本についてお話し下さい。
ばら作りはじめてスタンダードに懲りはじめた頃、もうずい分古い話だが三宿ガーデンの人と知り合いになり、沼田の茂木さんという方を紹介してくれたのがはじまり。野ばらといっても、実にいろいろ種類がありましてね。その頃はどれが良いのか判りませんでしたが、しだいに凄い特徴をもった台木だと判って来たので、それを実生で育てては台木に使っています。ふつうの台木は雪がつもると折れるが、こいつは折れない。
19. メルヘンケーニギンなど良い色を出すにはカニナの台木じゃないとダメということですが。
どうもこれはまゆつばらしい。というのは、メルヘンケーニギンはもともと、クセのある品種で、同じ株でも濃いのも薄いのも咲く。うすいのを接ぐと必ずうすいのが出来るので、濃いの濃いのと接いでいくと間違いないようだ。だから台木のせいとは言え ないと思います。
20. ミニのツルをベースとした懸崖作り(写真)について、手がいりますか?
もともと菊の懸崖を似せたもので、巾1m、長さ2m20cmにもなる。くねらせくねらせ曲げて根上がりしたものが見栄えがよい。菊は1年で終わりだが、 バラは新しいシュートをどんどん増やして12月の早いうちに枝を節々から咲いているものを2cmほど残して、そこから芽が出たものに咲かせる。枝垂れ (ウィーピングスタンダード)も同じように12月に 古い枝を更新させていく。消毒はふつう。ダニが来やすい。いったんベースが出来ればあとは楽ですよ。
21. 設問11の答えに本葉3枚の上をピンチして咲かせるとありますが。開花タイミングは遅れませんか。またハウスは暖房入れるのですか。
鉢植えだと地植より温度に対して敏感なので、12月にビニールハウスに入れただけで無加温でも本葉3枚目でピンチしても、春のコンテストに間に合いま す。ピンチするのは、大宮の高橋武理事の1本切りと同じに考え方ですよ。ふつうだと当地は東京展に間に合うのはロイヤルハイネスだけですが、鉢を使うのはそういう理由もあります。
22. ウィービングスタンダードや懸崖などどのように運搬するのですか?
展示会では珍重がられているので、今年の春も高島屋から4t車で取りに来てもらって、運搬した。高速道路を使うと2時間ちょっとで着くものだから大して傷まない。展示会が終わったら、すぐにまた返してくれます。
23. どのくらい日持ちしますか。ふつうのHTだとせいぜい2~3日ですが。
展示会は日を合わすのに苦労する。いったん咲くと安曇野(あずみの)で14日くらい持ったかな。展示会用にはもってこいのやつでいつも人気がある。ひとつ始められてはいかがですか。
24. 懸崖やウィーピングスタンダードのできるのはどんな品種がありますか。
安曇野、のぞみ、須磨、万灯火(まとび)などはそれに該当しよう。全部小野寺氏の作です。
25. 写真(近影)と最近の作品、写真各2枚。
最近良い花が咲く時期は何かと多忙で、撮って居 りませんのであしからず。
本年の本部展は、皇太子殿下御成婚というおめでたい年でもあり、盛大にやりたい、との高島屋の意向でしたので、それで、私に飾りの作品を5点程出品してくれまいか、との依頼を受け、ウィーピング スタンダード、25年もの2本と懸崖作り8年もの2本、傘仕立1本、計5本飾らせて頂きました。ばら展の盛上りに一役立ちましたようです。
初日に、高松宮信子殿下の御来臨を仰ぎウィーピ ングや懸崖作りのことを色々出問された程でした。 コンテストは春の寒さの影響で水戸の近藤広さん、 群馬の平野さんが出品されなかったのが詫びしく思いました。また、これと言って印象に残るような秀花も見られず残念でしたが、気候のなせる業で仕方ありません。私自身も悪く1等は5点のみ、2等1が7点でした。初日にメルヘンで総理大臣杯がオール1でしたが、出品者名を書き忘れて失格となったのがちょっぴり残念に思いました。全くメルヘンに申し訳ないと思っています。以上
御期待にそうようなお答えが出来ず申し訳ないと思って居ります。
九州のばらの仲間、友達の皆様によろしくお申し伝え の程お願い申し上げます。