ばら随想 唐杉 純夫
平成3年/1991 No.6 掲載
A. 一本独個のはなし
大牟田のばら会長の角さんのところへ行った時の話。 毎年1月に接ぎ木講習会があり、そこで台木がなくなったので、山に行って野ばらの台木を取って来て、その台木を5本ぐらいに株分けし、接ぎ木後戸外に放置していたところ温室に入れておいた新苗台木のものよりもはるかに勢力が強く、5月の花時にシュート花が咲いたと話してくれたので早速様子見にいって来た。接ぎ木というのは根の台木の勢いがあれば必ず接がることの証明であり、根の勢いで決着が決まることをしめている。
また角さん宅では一本独個の鉢にコンフィダンスが4本立ちで咲いているのをたまたま見て、またしても驚かされた。そしてこの花の美しかったこと。色が気品を保ち黄味こそなかったけれど、コンフィの持ち味である独特のピンクのフワッとした暖かさが出ていて、秋のばら展でもそこそこの成績にはなろう花容を色だけだが出していた。何故だろうと思い一瞬ハッとなった。なぜこんなすばらしい花が咲いたのかは、穂がよいわけでなく、木の勢いが良花を咲かせただけということ。つまり植木鉢の6寸か7寸の鉢にはまだ肥料はなく、ただ古い台木を突っ込んであるだけ。であるが故に一本独個としての面目躍如たるものがある。これは実は大変な収穫である。コンフィをいかにして作るかを教えてくれたことに なる。コンフィは木の勢いが大切でこの勢いをいかにして作るか、これが問題なのだ。コンフィは花の時期には完全に無肥でもよい、無肥でなければならないのかもしれないが、さてこれをいかにして露地で再現し、木に養分を蓄え、秋に備えるのだろうか。
コンフィの栽培法を一年の暦で仕上げると成長期にメシをいっぱい食わせ、うんとふとらせ、花の時期になったところで断食させ、水ばっかり飲ませ、肥満体を痩身体に変化させる。その方法を考え出せばよいということになる。
一般にばらというのはこんなもんだ、これに違いないと確信をもって言えそうな気がする。これはまた肥料をどうやって抜くかということでもある。参考までにこの鉢に使った用土について尋ねてみた。角会長は隣のしいたけ栽培の木の使用滓を使ってまぜたらしい。それとほんの僅かだが油粕もやったらしい。
B. 鉢植えについて
イ その期待する理由
ばら栽培の過程のなかで培土条件を自由に変えていくことができれば、すべて品種は最高の状態で開花するはずで、その条件をいかに作り出すかが個々の腕前であるが、それを探し出すのが鉢植えの役割だとかねてから考えている。
赤土系のように肥料持ちがよく、いったん施肥するとなかなか脱けきれず、何年も元肥、追肥をほとんど必要としない土壌もある一方で、火山灰土系のようにかなり溶脱がはげしく、いくら施肥しても多肥の品種が育たない場合がある。また逆に成育期は肥料をうんと欲しがるが開花期には絶対に寡肥でなければならない品種もあるようである。
まず第一はコンフィとかシージャックとかあけぼのである。わたしのいまの技術水準で思うところでは、彼らの理想的な生育土壌はヒョッとすると鉢植えじゃなかろうか、と思っている。
彼らには成長期には思い切って肥料を食わせ、葉、茎、根をのびのび拡大成長させる中で、ある時期に(これが 実はむづかしいのだが)さあッと肥料を抜き去り、微量要素を鼻薬として塗り付けると妖しい色がでるといった品種だ。鉢が最適だと思うのは、そういう環境を勝手に作れるのではないかと思っていること。赤土を持って来て、ある程度は肥料を抜かないでジワジワと徐々に抜くように心がけることも課題の中に入るけれども、今年は培土は一定にしてやってみる。
また根張りを制限していい花を咲かせたい品種がある。レッドデビルやレッドライオンなど勢いが有過ぎて駄目花になってしまうので少し抑えて栽培するとよいのではないか。
第二に「こだわり品種」がある。カレドニアだ。彼は古花だし、白花のためコンテストには勝てっこない品種だが、この難しい品種であるが故に、何とかホレボレする花を作り、大向こうをうならせて見たい気がする。文献でもこれがまともに咲けば最高にいいとあるので、今年はこいつにこだわってみようとしている。マグレディスアイボリーやエローなどもどうもそんな気がする。
第三は香久山だ。去年は大いなる期待をもって10本ほど植えたが露地のどこが気にいらなかったのか、全く生育が悪く、3本は捨ててしまった。忌地現象が起きてしまったかのように。香久山は特別に新苗生育が悪い品種だとなっている。1年目を過ぎると露地でも随分大きくなっていくが、何故なのか。思い切り多肥料にし、水はけをよくして栽培観察してみようと思い立った。
この場合の鉢のコンディションだが、直径80cm、深さ36cmの22L 丸缶が手に入ったので、それに堆肥7L、モ ミ殻燻炭2.6L、赤玉土3.5L、ボラ土3.5L、鹿沼土3.5L で 計20.1L。これに肥料としてヨーリン、油粕、マニアル、 第一燐酸カルシウムをそれぞれ100グラムを鉢の中央部にかるく混ぜて置いた。
ロ.その結果
第一のコンフィその他についてはいろいろ好き勝手でやってみたが、まだ結論がでるところまでいかなかった。樹勢の割りに枝のつなぎ方を間違えて幾分細立ちになってしまった。花色も露地より勝っていなかったし、 葉はそねくり返っていて色もまづかった。8月上旬の最暑期にちょっと油断したのがたたり、コンフィの何本かはいつのまにか葉を数枚落としてしまっていた。
あけぼのは結局肥料がたりなかったのか樹勢がいまいちでリン剤で準備していたフィチン酸の添加効果も確認できずウヤムヤのうちに終わってしまった。ただレッドデビルだけはやや花が小ぶりではあったが、ブルーイングのない、真っ赤な色が出て効果を確認できた。
第二のカレドニア。これはもう一度続けて見たい品種となった。肥料は多くても支障はないようだし、屋根つきのところで再現させて見ようと思う。思ったほど生育も悪くない。
第三の香久山だがこれはどういうのか全く効果がなく、首をかしげてしまった。最初は燐酸吸収係数の問題かと思い、露地とちがった処方をしたが当て馬がはずれて、ガタガタになった。結局肥育も悪く、何もわからなかった。
ハ.その反省
実はこの鉢植えは去年ディオール10本で初めて経験したことで、花柄も色も全く遜色がなかったこともあって広げていったのだが、40鉢も育てることになると、手入れが大変で、結局欲が深すぎアブハチとらずになってしまった。
肥料をやるにしても100、400、700PPM などと濃度を分けて育てなければ、本当の結果は見えてこないし、見方によってはたとえ鉢が小さい実験場でもやはり土壌の要因が強すぎて、実験結果を露地に再現させようとしてもムリだということであるかも知れない。
今年の実験では花は結構取れたが、佳花を確認できるところまでにはいかなかった。しかし、これはある意味では趣味栽培者の贅沢でもあるので引き続き実験し、ある結論には到達させたいと思っている。