うちの宿六 其の六 原田 ハル子
昭和60年/1985 掲載
我が家の宿六殿が某紙に出してケイサイされた記事の一部を発表致します。 宿六いわく、之からは宿六の書いた記事です。
『私が煙 草が吸い度くてマッチが無くてうろちょろして探して居ると、家内が何処からか出して、すうーと私の所へ持って来て呉れて。「ハイマッチ」と差出して呉れた。 そこまでは、まづまづ愛い奴で有るが、其の後の云い草がにくい。「ハイ山の内の一豊の妻」だって。冗談では無い、マッチ一箱と嫁入りの時の夫の一大事の時には此の鏡を割って中の小判を我が夫様へ差上よと親から持たされた鏡の中の小判とでは天地の差、問題には成らない。でも家内に云わせれば必要で困っている時にスーッと出してやる妻の内助の功は変りは無いとかのたまう。私は溜息、うちのカーチャンに、之では私の死ぬまでに、山程の内助の功を山程背負わされて其の重圧でとてもじゃ無いが男子の平均寿命の七十二才までは持てそうも無い。
......なんて書いて居るのです。ほんとうに、にくたらしい宿六。
話変って、「打倒小林夫妻(正子さん御夫妻)」之を本人夫妻を目の前に置いて云うのですから、我が家の宿六実にあきれ返ります。もっとひどいのは「来年当り福岡に腸チブ スが流行して正子さんがコロッと逝ったら私にも優勝のチンスが来るんだけどなあ」と、之も御夫妻の前で......。
それでも小林校長先生はニコニコ笑って居られましたとか。 冷汗も此処まで来れば氷点下ですよね。其のくせ小林校長先生が大好きらしく、何時も此の方の事ばかりほめちぎって居ります。 しかし此の春、我が家に小林御夫妻が御出に成られた時に宿六が「十二月から基肥を入れ始めてから二月の始めまでかかる」とこぼしましたら、小林御夫妻は「そうですか 私の所は一日で基肥入れ所か植替まで終りましたよ」と 事も無げに云われましたそうで、私は留守でしたが之が余程ショックだったらしく其の後一週間位、「へえ一日で」「へえ一日でね」と、つぶやいて居りました。そして「俺はバラ作りがわから無く成った。嫌に成ったとの言葉の連続でした。しかし我が家に適当な枝振り良い松の木が無かった故か首吊り自殺もせずに「よし今年は一 週間で基肥は片づける」と宣言を致しました。 ホゝゝゝゝ
一つ習い二つ忘れる老の道。（宿六殿の好きな文句） 今日も又二人でおぼえるバラの道
六十才でボンコツ、七十才で光惚、八十才で骸骨に成らない様に私達はバラの道にはげみ度いものですが、我が家の宿六殿、六十有六才にして既に骸骨の人に成りかけて居りますが、此の先どう成る事でせう。 ホゝゝゝゝ