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ローズ・ふくおか アーカイブス 1993-3「自信喪失 奈落の底から」

自信喪失 奈落の底から   松岡 初義
平成5年/1993 No.7 掲載

 薔薇を栽培しはじめてかれこれ15年余りになる。この間いろいろとご指導を賜った先輩の方々のお陰で、あまり大きく外れることなくどうにか栽培の要点を学ぶことができた。ただ栽培できる畑がごく狭いので、実際に腕前を遺憾なく発揮するというわけにはいかないのだと逸る心を抑えてきた。

 畑と道路とが隣り合わせになっているので、初めの頃は移植したばかりの薔薇苗がよく紛失したものである。 当時はその苗が掛け替えのないものに思われて二三日は憂鬱であった。そのうちこれを補充するために接ぎ木や挿し木の方法を教わって試しているうちに興味が沸いてきた。苗作りは狭い畑でも充分できたからである。手引書などを入手して手当たり次第試しているうちに、接ぎ木や挿し木の方が薔薇の花を咲かせるよりも面白くなり熱中した。

 その甲斐有ってか、接ぎ木と挿し木の技術の腕前は毎年上達した。薔薇だけでなく、柿や柑橘類にまで及び成功率も高くなってきた。こうなると完成したものを知人などに分けてあげる楽しみが湧いてきて自信は最高点に達した。ここまでは良かった。去年の秋から今年の春に掛けていつものように手に入る材料を使って大規模に接ぎ木と挿し木をやってみた。頭の中にはそれが成功したときの喜びを描きながら。

 ところがである。この世が全く一転したかのように殆どの接ぎ木と挿し木が失敗に終わってしまったのである。 成功することを信じてこの間も材料が手に入り次第接いだり挿したりしたところ、その殆どが無惨にも失敗に終わってしまったのである。これまでと方法を変えたわけでもなく、手抜きをしたわけでもない。これといって思い当たることがないのが大きなショックで、天国から奈落の底に突き落とされた感じである。どう考えてもその失敗の原因が掴めない。

 道路に面した隅っこにカラタチの木が1本ある。これに接ぎも接いだり12種類の柑橘類の穂木を3月の末に接ぎ木した。この穂木は花畑果樹園芸公園から上質のものを戴いてきたものである。うまくいけば1本のカラタチの木にいろいろの柑橘類が枝もたわわに実を沢山つけるはずである。今のところまだ失敗したような徴候は現れてはいないのがせめてもの救いである。この原稿の締切日の明日も今日とたいして変わるまい。結果がどうなったかは5年10年先でなければ本当のことは判るまい。薔薇の苗も同じ様に今直ぐにと言うわけにはいかないかもしれない。

 平成5年4月23日