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ローズ・ふくおか アーカイブス 1987-6「私とあけぼの」

私とあけぼの   荒木 繁
昭和62年/1987 No.4 掲載

 今度、会報投稿を受け、さて何を書いて良いやら気ばかりあせって、バラの本、バラだよりを引っぱり出して改めて読み返して諸先輩の方々のすばらしい文書に感銘するばかりで一向にペンが動きません。只誌面に穴をあけぬ様悪戦苦闘してペンを取る事にしました。

 まず本題に入る前にこの人を避けて書く事の出来ない方がいらっしゃいます。私がバラを作り始めた頃、福岡玉屋デパートにバラ展を見学に行った時、会場で飾りつけをされておられた品の良い婦人がおられた。そしてバラ作りを勧められ、私の恩師、多加喜さんを紹介して戴いた人でも有ります。この人が福岡バラ会の釜瀬さんで す。それに私の畑に植えて有るあけぼのの苗はほとんどが釜瀬さん宅の畑で出来た苗を自分で継穂して作った苗で有ります。私が申す迄もなく釜瀬さんのあけぼのは有名で有り、私も釜瀬さんのあけぼのの様な花を前々から作って見たいと思っていました。

 昭和61年秋、宇部の全国展で図らずも私のあけぼのが一等賞......それも二つも戴く事が出来たのですから、我ながら全く予期しない出来事で私のバラ作り史上革期的な年になりました。思えば此処迄永い道程でした......などと書き始めればバラ作りの苦心談として相応しいのでしょうが、諸先輩を差し置いて苦心談を語る程経験が豊かでは有りませんので、私の畑での自己流の作り方、栽培方法を書かせて戴きます。

肥料

 バラ展で入賞を狙うとなると、どうしても多肥栽培になり、更にこれを通りこして過肥栽培になる事もしばしばで、この結果肥料が片寄り、併せて土作りがこれに伴わず思った通りの成績が上らずがっかりするわけです。 肥料は少な目に施し、不足分は結果を見ながら少しづつ補給していった方が良い様です。元肥は寒肥12月中旬〜下旬・夏肥7月下旬〜8月下旬にやり、あけぼのは寡肥栽培ですので、有機物は(古畳、マルチングに使用した藁、ピートモス等)他の苗と同量に鋤込んでやり、骨粉3魚粕2米糖1の割合で混合して施し量は他の苗の1/2〜1/3程度減らし土と良く混ぜあわせてやります。さらに花の為に良い燐酸分を補う為に根のすぐ近くに過燐酸石灰又は熔成燐肥を少し撒いてやり、夏の元肥は冬より少な目に施しています。加里肥料として草木灰を花の前に施します。以上が私の畑の肥栽培管理ですが、どうしても過肥栽培になりがちで追肥等はほとんどやっていません。 今後はもう少し肥料を減量栽培したいと考えています。

消毒

 先づ悩まされるのは病気と色々な虫の被害でしょう。 病気の方は良い薬が出だしたので使い方さえ適切なら問題有りませんが虫の方は一寸と油断すると被害を受けますので生態を良く知って被害防止に努める事が必要です。 まず私は1月〜2月かけて石灰硫黄剤10倍~15倍液を3回程度散布して置きますと、春先病害虫が出にくい事と夏のダニ退治が少く楽です。石灰硫黄を使用すると噴露器が損傷するので如露を使用し樹の上から畑一面に散布 します。その後は4月20日頃から消毒を始め、消毒の効果は雨の前後が一番大切で、天気が続けば10日や2週間は休んでも雨が多ければ雨の間を縫って消毒します。特に私の所は(5月上旬〜10月上旬頃)昼夜の気温の差がはげしい時はベト病に注意します。その頃ダイセン系の葉を混ぜて散布します。病気は出てからはもう手遅れですので先手先手で散布する様に気をつけています。

ステム直し

 5月と10月に入るとあけぼのは面倒な枝直し作業が有ります。花頸が蕾の重さに比して弱く湾曲する癖が有るので花頚一本一本に添竹(直径3mm位針金にビニールで被覆したもの)で垂直に立ててクイックタイで軽く結わえつけてやります。そうすると葉も茎に対して左右対称で姿勢も良くなりステム全体が真直になります。花項近くから矯正すると折れる事が有りますので下の方から上へと結んで行くと安全です。枝直しで最も注意すべき事は枝が未だ軟い時に焦って直すと折れたり、クイックの傷跡がついたり、一度に曲りを直して置きますと翌日見ると曲げた反動の様に曲りを直した上が逆にくの字に曲る癖が有ります。従って枝直しを大きく曲げる時は少しづつ何回も分けてやる方が反動の心配が有りません。こ れも花の咲く直前では間にあいませんので遅くとも開花 10日〜15日位以前が良い様です。

遮光

 あけぼのは蕾が着き花頚が伸びて来て蕾の萼が落ち始める前に天井に黒い寒冷紗を張ってやります。そして蕾に色が着き始めると蕾一つ一つに紙で袋を作り、4、5日位頭からすっぽり被せる。3分咲き位の時に紙袋を取りはずしてやる(直射日光に当ると弁端のピンクが黒ずんで汚らしくなる)遮光が過ぎない様にする。

開花時期

 開花の予測は其の時の気候条件で左右されますので判断が難かしいですが、大略の目安として品種にもよりますが蕾が着いたと判別つけばそれから約一ヶ月位で開花する様です。着蕾してから花頚が伸びる迄8日間、花頚が伸んで夢が割れて色着き始める迄10日間、それから萼が下りる迄8日間、それから開花迄5日間位でしょう。この一ヶ月間は前半が温度が低くて蕾の成育が遅れている時は不思議と後半に気温が急に上がり開花期は大体余り変わらない様です。従って私の所は小倉市内よりもだいぶ温度が低いのですけど5月下旬以降に開花する場合は5月に入って急に気温が上がる為に着蕾から開花迄の日数は非常に短縮されます。

出品

 花頭の部分の茎を指先で触ってみて断面が円形のものが花形が整形になる様な気がします。花弁の端にピンクがかかり鋭い剣弁高芯の巨大輪になり弁質は厚く花持ちは特に良いので7分咲き位の花を切って良く水上げさせてコンテスト会場に運べば芯が良く出てドレッシングが必んど不要なほど整形に開いてくれます。欠点として花顎が曲る癖が有るので、よほど前から注意してステム直しをして作らないと出品した時に非常に苦労します。

花の特性

 あけぼのの花は濃緑の大きい輝葉で美しい色と香りに魅せられて素晴しい花容を見せてくれますが、暑さにやや弱く直立性で枝数が少く樹形もまとまりがなく所謂作り難い品種に入り、いわんや露地では遮光しないと花はどぎつくなり遮光が過ぎるとこの花の特長である弁端から湧き出る様な黄色が出て来ません。肥料の調節も難しく多肥にすれば花は全く駄目、特に窒素分が多いと花はぼたつき花頸が湾曲したりする。それで開花直前の灌水は禁物、又、添竹でステム直し等、とに角手の掛かるバラで有る事は間違い有りません。それゆえにこの難物をう.まく作る所にバラ作りの醍醐味を味わう事が出来るのかも知れません。

 入選作 あけぼの
 品名 あけぼの  エセル・サンデー X ナルチェセ