バラ作りあれこれ 北坂 徹
昭和62年/1987 No.4 掲載
バラを作りたいばかりに此所に土地を求めて12年が過ぎた。東南向きの傾斜地で日当たりが良く水はけも良さそうだった。土質はこれまで農作物が作られていたので団粒化が進み肥沃なように思えた。ところが現実はそう巧く行かなかった。日当たりについては問題無かったが、地表から約30cm下には壁土に最適な粘質赤土があって水はけは意外に悪く、おまけに以前の野菜作で施された肥料(特に窒素)がかなり残っており、これらの対策としてかなり高畝にして水はけを計ったり、肥料のコントロールをして窒素過剰からの脱皮を計ったりしてやっと見られるような花を咲かせる迄に2年かかり、バラ作りと野菜作りとの相異を身をもって体験させられた。
土作りは2年で一段落したが、私のバラ園には毎年頭痛の種が3つある。それはベト病とスリップスと地雷である。薬剤が進歩して黒点やウドン粉はサプロール、バイレトン等の定期散布で大体防除できるがベト病については今の所特効薬が見当らず発生したらお手あげの状態である。これは地形が山に囲まれた盆地のようになって いる為、昼夜の温度差、空気の澱み、夜露が非常に多いことが根本的な原因となっている。そこで8月中旬から10月にかけて(9月が最も発生しやすい)はアリエッティCを主体の薬剤散布を5日に1回位やっている。それでも一昨年共コンフィダンスや香久山等にベトが入り秋の花は全く使いものにならなかった。効果的な対策をご存知な方は是非御教え願いたい。
前は田んぼで周囲が山に囲まれているから虫の多いのは覚悟していた。毎年カミキリ、カナブン等大形の虫が沢山やって来るがこれらは花季を外れた発生なので困りながらも何とか我慢できる。私の所で一番困る虫は花季に発生するスリップスである。小さい虫だから小数なら問題ないだろうがこの辺りでの発生期ではとにかく天文学的な数で、特に隣りのお茶畑が巣らしく、お茶畑で薬剤散布があると頭上よりスリップスが雨露と落下して首すじ等をムズムズと這い回るのだから驚きである。この虫が花にもぐり込むと花弁がひどく見苦しくなるのは皆さんご存知の通りだが、最近は花だけでなく幹もひどい 被害を受けるようになり表皮がまるでケロイドのようになって未熟で固まらないのでキャンカー等に弱くなってしまう。
さて、その防除対策であるが一度花の中にもぐり込むと浸透移行性殺虫剤のオルトラン、アンチオ、エカチン等でも花芯迄は届かないのでかなり多量に散布しても駄目である。そこで私の実施している対策は、蕾がふくらんで来たら花弁が見える前にオルトランまたはエカチンTDの粒剤を1株当り露地植えには約10g、鉢植え(8〜10号)には約5g散布して灌水する。2週間経過した時に同じ要領で第2回目の散布をしている。また、ガクの間から花弁が見え始めたオルトラン水和剤か乳剤を小型(1L)スプレーに常時準備しておいて、雨天を除き連日夕刻(5〜6時)に蕾だけに散布する。この作業はかなり面倒だが粒剤だけでは防ぎきれないので春秋の開花期には私の所では欠かすことのできない作業になっている。こんな神経を使っていても一寸タイミングが悪いと大きな被害を受け、特に淡色の花は見る影も無くなってしまう。
スリップスの生態については詳しい資料が無く不明な点が多いようだが、私は一度成虫が花に入ると花の中で産卵・ふ化が短期間に行なわれて急激に繁殖するのではないかと思っている。ボルスタールというスリップス用薬剤の説明書に、ミナミキイロアザミウマの生活史というのが図解入りで書いてあるがこれを見ても地中の蛹が成虫となって大気中に出てくると2~3日後に産卵し、 卵は4〜5日でふ化して幼虫となりそれが5~6日後に は地中に入って蛹となる。地中の蛹は僅か5~6日でま た成虫となって大気中に飛び出すという解説がなされて いる。しかもこの虫は小さくて非常に狭い隙間から侵入 できる体形になっているので、ガク折れ始めてからの薬剤散布では手遅れだと思う。昨年迄には上記の対策で何とか凌いできたが決して万全では無く可なりの痛手を受けたので今年予定している対策は殺菌剤スリップスに効果のあるマンネブダイセンを多用しこれにオルトラン水 和剤を混合した薬剤を定期散布するよう計画している。
以上私が現在地にバラを作り始めてから最も苦心した土作りと病虫害について書いてみました。私の現有栽培本数はHTとFLで約150本、Minが約100本、ノイバ ラ、サンショウバラ、ハマナス、モッコウバラ等の原種、少数のCLと実生を合計すると300本は下らない。仕事片手では多過すぎるので充分な手入れができず、あれもこれもと気ばかり焦ってなかなか実行できない場合が多いが、あまり神経質にならないで適当に楽しんでバラを作 りたいと思っている。
皆さんのバラ園の環境は如何でしょうか、自分の土地 に合った栽培法をそれぞれ工夫して美しいバラを咲かせるようお互いに頑張りましょう。