アメリカばら会に加入して 瓜生 典清
平成元年/1989 No.5 掲載
昨年夏、京都で開催された低温物理学国際会議には諸外国から関係物理学者が多数出席し盛大な会であった。 筆者が20数年前米国ピッツバーグ市にあるカーネギー・メロン大学(当時はカーネギー工科大学)物理学教室に訪間研究員として招待され2年間滞在した折大変お世話になった Friedberg 教授は夫人同伴で訪日され、また、この機会に福岡まで足を伸ばして頂き色々と旧交を温める機会を持っことができた。観光案内の序でに拙宅にもお立寄り頂いて歓談している裡に庭の薔薇に話がおよんだ次第であった。
御夫妻が帰国されて2ヶ月ばかり経った頃アメリカばら会 American Rose Society(ARS と略)から Gift membership のカードが送られてきた。Friedberg 御夫妻より、日本滞在中の接待に対する心ばかりの謝意として、一年分の会費を沸い込まれての贈り物であった。ARS へ接触する手掛りを探し求めていた筆者にはまたとない有難い贈り物であった。それより程なく11月号から定期的に会誌が届くようになり、毎日興味深く読んでる次第である。
会員証と共に送られてきた小冊子 “1988 Handbook For Selecting Roses" も仲々面白い本である。もちろんこの小冊子は、ばら購入に際しての選択の手引きをその主たる目的として書かれているが、表紙裏には、ARS会員への勧誘の言葉が述べてある。およそ20,000名のこの非営利のアマチュア園芸家から成る組織へ是非お入り下さいとある。実態はよく判らないが、単純に米国と日本の人口比から考えてみると日本ばら会の会員数は1万名になって然るべきだということになるが、恐らく余程の努力なしにはJRSが1万名の会員を擁する大きい組織に発展することは夢であろう。
われわれの周辺を見ると、ばらを愛し栽培してみたいと希望される人は多い。それらの人達が、ばら会に加入し楽しいばら作りを続けて行かれるためには、もっと初心に立ち返ってばら会のあり方を考える必要があると思われる。ARSは全国に350以上の支部があり、ばらに関する種々の間題を各地区のエキスパートに相談できる ようになっているとのことである。ARSとJRS、ひいてはわれわれのFRSにおける会員数の人口に占める割合を考えてみると、FRSは福岡都市圏、すなわち福岡市と周辺都市ならびに郡部を包括した範囲の中心的存在たるばら会であることを考えてみれば300名以上の会員が定着するのが普通ではあるまいか。役員の方々のみならず、一般会員による各地域でのばら作りへの助言、指導を通して、一人でも多くばら作りの楽しみに加わられるよう努力したいものである。
アメリカばら会の会員からの報告にもとずいて決められたばらのランク付けの表は大いに興味がある。10点満点で評価し10.0を Perfect、9.0から9.9までを Out Standing、8.0から8.9までを Excellent、7.0から7.9までを Good, 6.0から6.9までをFair、5.9以下は of questionable value という分類で、約2,000種のばらのリストに点数が付けられている。8.0以上の高得点の品種名が H.T、Floribunda、Miniature 等の各グループで色彩別に表としてまとめられているが米国人と日本人の好みや評価の相異を反映していて仲々面白い。目に付いたのを多少挙げてみると
Royal Highness | 8.6 |
Confidence | 7.8 |
Garden Party | 8.8 |
Peace | 8.9 |
Kordes Perfecta | 6.9 |
Queen Elizabeth | 9.1 |
Akebono | 6.5 |
Dainty Bess | 8.6 |
Pristine | 8.9 |
Double Delight | 9.0 |
Honor | 7.6 |
Golden Sun | 5.1 |
Sunblest | 7.0 |
等々である。Golden Sun は Goldene Sonne の英語名、 Sunblest は Landra の正式名である。Min.の Starina は何と9.6と最高点にちかいものが与えられている。
ARSからは会報の他に、日本ばら会発行の初心者向けばら作りの手引きに対応する「All About Roses」や、現在登録されてい入手可能なばらについての辞書とも言うべき「Modern Roses」が発行されているが、会報にはその他ばらに関する出版物が紹介され、ARSを通じて入手できるようになっている。やはり蛇の道は蛇というベ きか、今迄欲しいと思っていたばらに関する書物が色々揃っていて購買欲をかき立ててくれる。そのうち一つ一つ求めていきたいと思っている。
私の手元には、この春入手した Modern Roses がある。時々目を通しているが、親しい数々の薔薇について、その色彩、性状、作出者名、交配親等々詳細に記されているので仲々に楽しいものである。FRSの前副会長太田氏の作出花も多数掲載されているのは流石という他はない。いくつか新しく教えられることもあった。筆者、今日もなお拾てきれないでいる白薔薇の White Prince があるが、 これがどこを探しても見当らない。もっとも Modern Roses は版を重ねるごとに新しい品種を掲載して行くため分厚 くなるので、古い品種名は適当に削除しているらしい。 ふと思い出したのは衣通姫である。たしか衣通姫は Message と White Prince を交配親として小野寺氏により作出され たものであった。そこで Sodori を引いてみると、交配親として White Prince の名を見出してほっとした次第であるが、一つ知ったことは我々が普通 Message と呼んでいたのは正式は White Knight と呼ばれているということであった。筆者も嘗って Message を愛培したことがある。花は小さいが、あの少し青味を帯びた純白の清純さは忘れたがたい。衣通姫は共に白の王子と白の騎士の子として生まれたことになる。このようなことにうつつを抜かしていると薔薇の手入れはそっちのけになりそうだが、暇の折に行なう Modern Roses 遍歴はここ当分やみそうにもない。
ARSの会誌7月号に掲載されていた一会員からの投稿記事は些かショッキングであった(The American Rose : July 1988 P.14)。 冒頭の文章をそのまま引用してみよう。
The arrival of Japanese beetles makes us feel that we are facing another Pearl Harbor. These metallic greenish-bronze colored insects are awesome in their destruction. Thay are voracious eaters and chew the petals of the flowers, bore into unopened buds. chomp on the leaves and congregate in numbers on open rose blooms.
ここでいう beetles は、はなむぐりあるいはこがね虫であろうが、もう一つの真珠湾攻撃に直面している感を持たれるとは些か大袈裟ではあるまいか。アメリカで薔薇の花を喰い荒しているのが本当に日本原産の中で、日 本からはるばるアメリカ本土へ上陸して暴れまわっているのであろうか。40数年前、日本軍が果せなかった米国叩きを、あっぱれ虫共が代りにやって呉れているのかと感無量の方がFRSの会員の中におられるかどうか。やはりこれは一つ真相を専門の方々に明らかにして頂いても、もし濡れ衣ならば不名誉は撤回してもらいたいものである。
貿易摩擦が我が国の農産物の輸入制限に対する風当りとなり 牛肉、 オレンジの間題から今や米の輸入自由化の問題にまで発展しつつある現在、こんな薔薇喰い虫共の責任迄取らされるのはたまらない。一時、福岡市でも猛威を振ったアメリカシロヒトリには、多くの落葉樹が被害を受けたが薔薇には影響はなかったと思う。親密な国交関係を保っている国同志の問題には、害虫の往来もまた頻繁なことは否めまい。お互い様のことではあろうがわれわれも悩まされている花ギャング、はなむぐり対策について会員諸兄姉の経験をお聞かせ頂ければ幸いである。 もっとも、同誌の投稿者も色々と対策について述べてあられるし、また、私の手許にないので残念だが、編集部の メモとして American Rose 1986年3月号、1987年3月号 にそれぞれ beetle problem についての解決策が記載さ れているとのことである。
以上、アメリカばら会に加入しての所感をとりとめなく述べたが、会誌には役立つ記事も少なくないし、広大な米国に大勢の薔薇を愛する人々が暮しているのだという実感は何物にも変え難い程嬉しいものである。言語や生活習慣を異にしても美しいものに惹かれる心情には差異はないのだという確信は、20年来薔薇に魅せられて過ごした筆者にはますますその信念を強くするものである。 (昭和63年9月記す)
追記、アメリカばら会を希望される方は御連絡下されば紹介致します。年会費は25ドルで、日本バラ会の会費よりはむしろ安い位ですが、送金方法によっては些か割高 になります。英語に自信のない方でも中学3年程度の英語力があれば十分に楽しめると思います。ばらに関する専門用語を最初のうち辞書で引くのはやむを得ないと思いますけれど暫く辛棒すればそれなりに楽しいと思います。筆者同様年配の方々のぼけ防止対策として晩学もまた宜しいかと思います。