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ローズ・ふくおか アーカイブス 2009-20 バラを作り始めて思うこと

バラを作り始めて思うこと   吉田 博美
平成21年/2009 No.20 掲載

 

 バラを作り始めて、4年目になります。そのきっかけは、平成17年11月に東区の埋め立て地アイランド・シティで開催された「アイランド花どんたく」の会場で催された福岡バラ会の「秋のばら展」でした。

 花と私の人生は切っても切れない関係にあります。それは私の育った環境に負うところが大きく、私が子供の頃我が家では、米、麦、菜種、それに柿・栗・みかんなどの果物、季節の野菜類、そして鉄砲ユリなどの花の栽培を生業としておりました。私も農家の長男として生まれ、好むと好まざるとにかかわらず手伝いをしてくる中で、花への関心が高まり花作りをしたいという思いが強くなっておりました。

 将来は父の後を継いで農業、花作りをしたいと思っていましたが、地域社会が大きく変革してくる中で、軌道修正を余儀なくされてしまいました。そのため、これまで勉強してきた花づくりの技術が生かせる農業技術者の道を選び、福岡県庁に就職、農業改良普及員や農業大学校の職員として、花の栽培農家や花作りを目指す学生の指導等を仕事とし、いずれは自分でも花を作りたいという夢を持ち続けてきました。

 そして、その夢を実現するため平成18年3月に県庁を退職することとしていた中で、 アイランド花どんたくでの福岡バラ会の秋のばら展の場に行き合わせたのも、何かの縁ではないかと思い、その場ですぐに入会。そして翌年2月バラ苗20本を購入、庭に植え込んだのがバラ栽培の始まりでした。

 当時の私は、自ら花作りを楽しみながら多くの人にも花を見て楽しんでもらいたいと、イングリッシュガーデン風の花の庭を作り始めた矢先でした。平成15年の夏に実家のすぐ近くの700坪余りある畑の一角に家を建て、仕事の合間に少しずつ庭を広げていた中でのバラとの出会い、そしてそれがバラ作りの始まりとなりました。

バラ作りの根幹は土づくり

 多くのバラの本の記述では、バラを植付けるにあたっては、直径・深さとも50cm程の植穴を掘り、堆肥等の有機物、油粕、骨粉、溶成燐肥等の肥料を入れて良く混ぜ合わせ、植えるようにと書かれています。この方法には、多少の疑問を感じながらも、最初の年はこれをベースにしようと正月前後の休みの日に土づくりを行い、平成18年2月に苗を 植え付けました。

 何に疑問を感じていたかというと、2つのことがあります。一つは、植える穴の大きさです。バラは永年作物で台木は野バラが使われており、根が伸びる範囲はかなり広くなります。一般に樹木の根の広がる範囲は、地上部の枝葉の広がり以上に横に広がりしっかりと根を張ろうとします。ノバラを野山で観察するとつるも根も相当広い範囲にわたって繁茂しています。

 また、農家がバラの切花栽培をする時は、ほ場全体を深く耕し、ピートや堆肥などの有機物を沢山入れて根が広がる範囲を広くして樹勢を付けさせ、より多くの良い切花がとれるようにしています。専門書には、1mくらい耕すように書かれたものもあります。

 このことは、植付ける前には頭の中にあったのですが、県庁に勤めながら20本分の植える場所を全面的に掘るのは、時間的に余裕がないこともあって、50cm四方の穴を掘って植え付けました。その後、研究会でこの疑問をベテランの方に投げかけてみると、何人かのベテランの方はやはり植穴方式ではなく、全面深耕をしておられました。中には1mも掘り排水対策までしておられる方もあり、展示会へ出品されたものを見るにつけ、その意を強くしました。

 そして、この年の春退職をし、自由な時間が十分に取れるようになったこともあって、 すでに植えた20本と新たに植え足す30本すべてを、全面深耕し植えることとしました。

 植付予定地は、2条植にするところは幅2m、1条植えは幅1mを基本とし、11月に 土づくりに取組みました。スコップで上部15〜20センチの土を植床の右側に掘り上げ、 その下の15~20cmを左側にいったん掘り上げ、さらにその下15~20cm くらいを耕 しました。そして、安価で大量に入手できるチップ堆肥(街路樹等の剪定した枝葉を大型の粉砕機で2〜3cmくらいに粉砕したものを取り寄せて積上げ、堆肥化を促進するため油粕を振りかけながら2回切り返しを行って半年かけて堆肥化したもの)、無料で入手できるもみ殻ともみ殻クンタン、それに牛フン堆肥も加え、10月〜11月にかけて各段ごとに混ぜ合わせて整地し、深さ70cm程の植床を作りました。

 植付は、肥料に油粕を入れたこともあって油粕が発酵して植物の根に障害が出ないようになるまで、1〜2カ月おいて12月〜1月にかけて行いました。堆肥類が、容量で半分近く入っていることもあって、いづれ苗が沈みこむことを想定し、植え場所は少し山高になるようにして植込みました。しかしそれでも1年たつと、バラの根元がかなり沈み込みましたので、翌年の12月に直径50cm 程で根を切り10cmほど株を持ち上げ植えなおしました。

 そしてこれには、続編があります。その翌年に新たに植込むバラは、株が沈みこまない方法として研究会で紹介があったことに挑戦してみました。それは、バラの根株の下に竹杭を打ち込み、その上にバラの株を据え植込む方法です。この方法では、確かに株は全く沈み込むことはありませんでしたが、株以外の周りの土が沈みこんだために、株の根元の竹が見え根が露出してしまい株がぐらつくものが出てしまいました。思い通りの結果を出すのはなかなか大変だな、なんて思いながら楽しんでいます。

 作土が深く広くなったことによって、根がかなり深く入りこみ、雨が降らない日が続いてもしおれることはほとんどありません。このため、肥料をやった時以外はよほど乾燥が続かない限り、ほとんど潅水をしていません。シュートの出方も多いように感じますが、展示会に持っていくと、ベテランの方との品質の差は明らかで、もっと経験を積む必要性を感じている今日この頃です。

燐酸肥料は窒素肥料の2〜5倍も必要か

 そしてもう一つの疑問点は、燐酸肥料の量です。多くのバラの本には、バラ栽培には燐酸肥料を相当多く施すように、窒素肥料の2〜5倍も施用するように書かれています。本当にこれほど燐酸肥料が必要なのか、これまで花の技術者として経験してきた知識から考えると、理解に苦しみます。多くの先輩の方々が、本に書いておられるのですから必要なのかもしれませんが、どうしても腑に落ちないのです。

 バラ栽培の実経験が浅い私が、そんなに必要ないと断言するのもどうかと思い悩んでいます。この疑問について知見をお持ちの方は、是非ご教示願います。

 今のところ私は、このように考えています。多くの本に書かれている燐酸肥料偏重の原因の一つは、関東の土壌を中心に書かれているからではないかとも考えてみました。火山が噴火してできた噴出物・火山灰などを組成とする関東ローム層からなる土は、燐酸吸収係数(燐酸が土壌に吸着され、植物の根に吸われなくなる度合い)が非常に大きく、燐酸肥料を与えても実際に植物が吸収できにくくなる性質があります。九州でも火山灰地帯では、燐酸肥料がより多く施されるのが通常です。しかし、福岡の多くの土壌は、花崗岩が風化してできた真砂土等の土壌からなっており、燐酸吸収係数はそれほど大きくはありません。そのため、窒素の数倍もやる必要はないのではないと考えています。

 今それから、バラの植付時にやる肥料は、このように書かれているのが多くみられます。 1株当たり、油粕300g・骨粉300g・溶成燐肥150g等と書かれていますので、多くの方はこれを参考にされているのではないでしょうか。 これらの肥料の三要素の成分を計算してみると、次のようになります。

肥料名(N:P:K)施肥量窒素(N)燐酸(P)加里(K)
油粕(5:2:1)300g15g6g3g
骨粉(0:22:0)3000660
溶成隣肥(0:19:0)1500280
合計750151003
(指数)(1)(6.6)(0.2)

 いかがですか。窒素1に対し、燐酸は6倍以上、加里は5分の1と、まったくバランスがとれていません。これでは、加里が極端に少ないので、塩化カリを加えるように書かれた本もありますが、それでも燐酸は異常に多くなっています。 「農家が温室でバラの切り花栽培を行って多くの事例や栽培技術指導書を見てみると、窒 素1に対し、燐酸、加里ともおおむね1前後(0.7〜1.5)で栽培されています。

 燐酸肥料は、必要以上に多く与えてもて過剰の害が出にくい肥料です。そのため、必要以上に施されているのではないでしょうか。バラを栽培している土を採取して土壌分析に出すと、土壌中に含まれている肥料の残量が数値として明確になります。バラ会の会員さんで土壌分析された方の数値を見せてもらうと、思った通り燐酸は必要以上に極めて多く残っていました。

 燐酸は、施肥量の2〜3割程度しか植物に吸収されていません。また、水に溶けにくく雨が降っても流れにくいので、どうしても多く残ってしまいます。それでも、バラに過剰害が見られないので、ついつい惰性でやってしまっているのではないでしょうか。

バラの消毒は思った以上に大変

 バラを作り始めて何が大変かと聞かれると、即座に消毒と答えます。土づくりや植付け、 剪定などの作業は楽しみですが、消毒はどうしても好きになれませんね。でも、消毒をしないと病気や虫の被害がないバラの花にはなかなかお目にかかれません。

 それで仕方なく、4月~10月にかけて毎月3〜4回も消毒をしています。これだけ消毒をすると、あまり病気や虫の害は出ず、きれいな葉のついた状態でバラの花が咲いてくれます。

 また、消毒の作業自体も大変ですが、農薬の選択も頭の痛いところです。通常使う農薬としては、殺菌剤、殺虫剤と殺ダニ剤の3つに分類される農薬をまずそろえなくてはなりません。そして更に、それぞれの農薬の特徴があり、病気や虫に対してすべてに効く農薬がないため、病気や虫の種類ごとにいくつもの農薬が必要になります。

 さらに、殺菌剤には予防効果はあるが治療効果はないものと、治療効果はあるが連用すると耐性菌が生じ効果がなくなってくるものとがあるため、数種類の農薬をそろえ必要に応じて使い分けしなければなりません。このため、防除は予防剤を中心に使用することとなりますが、多くの殺菌剤の予防効果は5日から10日くらいしかないため病気を出さないためには、月に3〜4回、年間20数回もの消毒をしているのが現状です。

 きちんと消毒するとほとんど病気は出ませんが、雨が続いたり、日常の忙しさにかまけて防除間隔が開くとどうしても病気の発生が見られます。発病すると予防薬だけでは病気が広がるので、治療薬の出番となり防除回数が増加する悪循環に陥ってしまいます。 私が使用した殺菌剤との特性を整理すると次のようになります。

殺菌剤の特性(農文協「農薬選びの便利帳」岩崎力夫著)
農薬名予防治療耐性残効浸透性
ダコニール高い5〜10日
サンヨール高い2〜5日
ジマンダイセン高い5〜10日
トップジンM高い5〜10日やや有
サプロール5〜10日
ラリー高い10日〜15日

 害虫に対しても、薬剤抵抗性がついて効果が落ちないように数種類の殺虫剤を使い分けて混合しています。ダニ剤は、夏場の乾燥する時期には混ぜる程度ですが、今のところほとんど発生していません。

 そして、さらに厄介で頭の痛いのが薬害の問題です。農薬の種類や濃度、バラの生育状況や気温によっては、薬害が生じてしまいます。栽培する本数が増えるに従って、どうしても病気や虫の発生も多くなってくるので、春から秋まできれいなバラを咲かせるためには防除により熱心にならざるを得なくなってきました。その結果、とうとうかなりひどい薬害を出してしまいました。

 今年は梅雨が長くて8月上旬まで雨が降り続いたため、黒星病の発生が8月から9月にかけて見られました。そのため、9月上旬に剪定をした後の防除は、予防剤だけでなく治療薬を織り交ぜたり、混合したりといった防除となってしまいました。予防剤とし、ダコニール、ダイセン、サンヨールを、治療薬としてサプロール、ラリー、トップジンMを散 布した中で、剪定後伸び始めた新芽や新葉に薬害が生じてしまいました。特に、HTの被害が大きく、惨憺たるものでした。

 そのため、これらの農薬の薬害の発生に関する記述をいろいろ調べてみました。日本ばら会の「ばらだより」には、次のような記述がありました。

  1. 「春、新芽が1cm程度の伸びたころから30〜40cmのステムに伸長するまでの間に、既定の濃度で薬剤を使用すると薬害を生じることがあります。このため、新ステムの幼葉がすべて展開するまで、経験上規定の濃度より3分の2倍に薄めて(たとえば1000倍を 1500倍に)散布します。(2007年2月号)」

  2. 「9月上旬の剪定後1週間もすると新芽が目に見えて伸長し始めます。この時点になると薬害に対して春以上に細心の注意を払う必要があります。それは、新芽の柔らかさは春と同様であるうえに、日中の残暑が加わり薬害の危険性が高まるからです。新芽が伸び始めた9月上旬〜中旬にかけての薬剤濃度は既定の半分(たとえば 1000倍を2000倍に)とし、散布時間も早朝か夕方を選びます。(2007年8月号)」

さらに、他の本を調べると

  • 「サプロールはバラに薬害を生じることがある」 : 農文協 [ 根力で咲かせるバラづくり ] 高橋通寿著より
  • 「サプロールの高温時の散布は、薬害の恐れがあるので、夏季の散布は朝夕の涼しいときに行う」: 農文協 [ バラの病気と害虫 ] 長井雄治著 より
  • 「サプロールは、2回以上連用すると薬害で落葉する時期があり3,000倍にするか、連用を避けてください」 : 誠文堂新光社 [バラ] 藤岡友宏著より

 まさに、今年の失敗の原因は、9月の剪定後の新梢の伸長期におけるサプロールの散布濃度や連用、散布時間等にあったのではないかと推察していますが、いかがでしょうか。

この時期の防除実績は次の通りです。

9月6日:トップジンM2000倍スミチオン1000倍オサダン2000倍
9月14日 : ジマンダイセン800倍ラリー4000倍マラソン2000倍
9月21日 : ダコニール1500倍サプロール1500倍マラソン3000倍
10月1日:ダコニール1500倍サプロール1500倍オルトラン1500倍

 9月中は、薬害の症状には気がつきませんでしたが、10月に入って新葉に異常がみられ始めました。それは、展開し始めた新葉に褐色のしみのようなものや変形が見られ、未展開の新芽も伸びはするが葉が委縮して成長せずに、その後褐変し始めた葉とともに落葉してしまいました。特に、HTはほとんど新葉がなくなり、まともに開花する枝は皆無となってしまいました。

 この時期は薬害が出やすいとの認識はあったので、通常の3分の2程度(サプロール1000倍を1500倍にするなど)に薄めてかけていたのですが、これほどひどい薬害が出るとは思いもよらず、ショックを受け困惑してしまいました。

 この失敗の経験を生かし、来年こそは薬害を出さずに花を咲かせ、展示会にも出せるような立派なバラを咲かせたいものだと、思いを強くしている今日この頃です。

わが家のイングリッシュガーデンを見に来ませんか

 当初書いたように、私の夢は一年中花に囲まれた生活です。その夢を実現するために平成15年の夏に現在地に家を新築し、草花が咲き乱れるイングリッシュンガーデン風の庭作りに取り組んでいます。3年前に勤めをやめ庭作りに専念できるようになって、庭もだ んだん広くなり充実してきました。

 そのため、多くの人にも花を見て楽しんでもらいと、昨年から5月にオープンガーデンを始めました。オープンガーデンを始めるにあたって、植込んでいる種類を整理すると300種類を上回っていました。1年草、宿根草、球根、花木、果樹など多岐にわたっています。一年中花が咲いた庭にするため、1年草を多く取り入れ年2〜3回植え替えをして、 年間を通していろんな花を楽しんでいます。中でも4月から5月にかけての2か月間が最も集中して花が咲き、まさに花園といった雰囲気になります。

 昨年のオープンガーデンは5月2・3・4日に行いました。しかし、この時期バラはほ とんど咲いていないので、今年は5月1・2・3日と、バラの開花時期に合わせて、5月18日と19日の2回に分けてオープンガーデンを開催しました。多い日には200人余りの来場があり、5日間で800人を超える人に楽しんでいただきました。

 ちなみにバラの本数も増加の一途で、露地植えが90本、鉢植えが20本余りとなりました。ハイブリッド・ティー、フロリバンダ、つるバラ、イングリッシュローズ、ミニバラ等手当たり次第植えて楽しんでいます。いずれは、それらの品種の特徴を把握したのち、 庭のデザインの中でうまく生かした庭づくりをしたいと思っています。4年前にバラ会に入り、研究会や展示会、見学会などに参加する中でいろんなことを学びました。これらの経験が庭づくりの上でも大いに役立っています。

 今年は芝の庭を作るなど年々広がりつつあり、種類・品種とも非常に多岐にわたり、樹木も大きくなってきており、理想とする庭に近づいてきました。

 22年の春にも、今年と同じように5月1・2・3日の連休時と20日頃のバラの開花時にオープンガーデンを開催したいと思っています。ご家族、お友達をお誘いの上、遊びにこられませんか。お会いできるのを、今から楽しみにしています。