ページ

ローズ・ふくおか アーカイブス 1991 バラ栽培の基礎講座 [ Ⅱ ]

バラ栽培の基礎講座 [ Ⅱ ]   渡辺 賢彦
平成3年/1991 No.6 掲載

「バラの栄養診断はあなたで」

名医が患者の顔を見て診断するように、バラの栄養状態も葉を見て診断出来ます。朝露の降りた庭に出て、朝日の斜光を浴びながら、元気にスクスクと育って行くバラを一本一本眺める時、最も充実した、壮快な気に浸る 一日の第一歩です。

 バラはあなたに語りかけ、訴えています。私共は経験に応じた判断で答えてやらねばなりません。そのためには、もっともっと、知識と経験を積み重ねる必要があります。今回はバラの栄養診断について基礎理論を検討しましょう。

要素欠乏(過剰)の診断と対策

動物の栄養素として、炭水化物、蛋白質、脂質の三大栄養素に無機質、ビタミンを加え、不可欠五大栄養素と呼び、これらのバランス良き摂取により、健康を維持しておりますが、植物のバラも同様に、窒素(N)、燐酸 (P)、カリ (K) の三大栄養素に石灰(C)、苔土 (Mg) を加えた多量要素と、金属無機質を主体とする微量要素とをあわせます。これら植物栄養素は動物栄養素と同様、バランスのとれた施肥が必要であります。そしてこれら要素の吸収過不足は、バラの生体の発育を阻害しま す。紙面の関係上特に知っておかねばならない点から論を進めたいと思います。

(1) リン酸(P)について

 リン酸は体内の各部位に含まれ、細胞の核の構成々分で、植物体エネルギー源となり、核蛋白質を形成しています。根より吸収されたリン酸は、体内を移動し、生長の盛んな新芽の部分や、根の先端、花、子実などに移動 し、細胞の増殖に携わっています。即ちバラの体内で重要な代謝作用を行っているところに集って来ます。

 リン酸の吸収や体内移動を最も強く助けあっているの はマグネシウム(Mg)で、相助作用といわれています。 この作用はマグネシウム程に強くはありませんが、ケイ 酸・カルシウムや窒素の間にもあります。又カリ、鉛、 亜鉛、銅などの過剰存在は、リン酸の吸収を阻害する (拮抗作用)とされています。逆にリン酸の過剰は、亜 鉛、銅等の欠乏を誘発することもあります。要はバランスよく施用することです。

 図ー1 リン酸の体内移動と欠乏症状の現れる部位

リン酸欠乏と対策

 リン酸が欠乏しますと、根の成長が悪くなり、他の要素の欠乏をも招きます。新芽や花の形成も悪くなり ます。葉に光沢なく、暗濃緑色を呈し、リン酸は新芽に移動するため、欠乏症は古葉の葉脈から現われます。(図1参照)普通は、症状は、花芽や子実が形成されるころから現れます。古い葉は紫色を帯び、暗緑色、つや無く、茎が細い。一般に欠乏症状は外観に現れず、体内で潜在的欠乏が起きています。

☆葉面散布

 欠乏症状が現れてから対策を構じても間に合いませんが(開花期)、第一燐酸カリ、第一リン酸カルシウムの 0.3~0.5%を葉面散布します。

  • リン酸の吸収や体内移動を助ける要素・・・マグネシウム (最大)、ケイサン、カルシウム、 チッソ
  • リン酸の吸収を悪くする要素・・・カリ、鉄、亜鉛、銅

(2) マグネシウム(Mg)について

マグネシウムは葉緑素の中核を構成している要素で、緑色を呈しています。故に Mg が欠乏しますと、葉緑素が減少し、葉の色は黄色くなり、光合成が悪くなり、 糖分(でんぷん)の生成が劣って来ます。

 土壌中に Mg が欠乏しますと、リン酸を施しても余り吸収しませんが、Mg を一緒に施しますと、リン酸の吸収が良くなります。

 Mg は植物体内でリン酸と相助作用をなし、リン酸の体内移動を助長します。Mg が欠乏しますと、体内にリ ン酸があっても、細胞分裂の盛んな生長点ヘリン酸が運ばれないため生育が悪くなります。Mg はリン酸と一緒に移動します。

 Mg はリン酸と共に植物体内の生長の盛んな所、新芽や子実へ自由に移動する要素でバラの着蕾時期には沢山 の Mg がそちらの方に移動しますので、根からの吸収が足りないと下葉から欠乏症が現われます。(図2参照)

 図ー2 マグネシウムの体内移動と欠乏症状の現れる部位

 先づ葉辺が黄化し、次第に脈間に黄化が広がって行き葉脈だけ緑色が残って網目状となります。更に黄化が進むと、茶褐色となり壊死状態となってやがて落葉します。

☆葉面散布

 下葉に欠乏症状が出たら、なるべく早く1〜2%の 硫酸マグネシウム溶液を7日おきに葉面散布をします。 Mg は葉面からの吸収が良いとされています。

☆他の要素との関係

 Mg はリン酸との相助作用が強く、又カリとの拮抗作用が著しい。

  • Mg の吸収や体内移動を助けている要素・・・最も強く助ける要素はリン酸で、ケイ酸もこれに次いでいます。
  • Mg の吸収を悪るくする要素・・・最も強く害するのはカリで、次いでカルシウムであります。

(3) カリ(K)について

  1. カリは炭水化物(糖)の合成、移動に大きな役割をもっています。カリは細胞液の中にイオンの形で溶けていて、炭素同化作用により葉で合成されたでんぷんが糖となって体内を移動する時、その運搬役をつとめていま す。カリは体内で移動しやすい要素で、古葉よりも生長の盛んな根の先端や新梢に蓄積されます。

  2. カリは蛋白質の合成にも大きな役割をしています。 カリは硝酸態チッソがあるときは、吸収され易く、アンモニア態チッソばかりであると、吸収が悪いとされています。この為に腐植を与えて土壌を団粒化し排水をよくし、硝酸化成菌の繁殖をよくしておく必要があります。

  3. 吸収の始めカリは又体内蛋白質の合成に大きな役割を果しています。根から吸収された硝酸は還元されて蛋白質に合成されますが、カリが欠乏しますと、この作用が順調に進まず体内に硝酸が蓄積して障害を起こしま す。即ちチッソが蛋白質に合成されず、中間生成物のアミノ酸やアミド態チッソが体内に集積され、病原菌がつき易くなります。このときに、黒点病や、うどんこ病が蔓延します。 又カリは体内の水分を調節しています。
    カリが不足すると蒸散作用が盛んとなって、萎調を起こします。カリが充分にありますと、細胞の膨圧が保たれ、葉も茎も強健となります。

☆カリ欠乏の場合

  1. カリはチッソに次いで土壌からの流亡が激しく、欠乏しますと、生長が衰え、先端の葉がやや萎縮し、古葉の先端が黄色くなり始め、次第に葉緑が黄化して来 ます。黄化は内部に広がり、黄化部と緑色部の変り目が鮮明で、次第に黄化部は褐変して来ます。(図3参照)

  2. カリ欠による黄化は下部の葉より始まり、上部へと移行し、下部より落葉します。
    これは、葉での炭水化物(糖)の合成や、葉から蕾への糖の移動のためにカリが動員され、蒸散作用がひどくなり、水分がなくなってカラカラの現象を起すからです。
    砂質や、腐植の少い土壌で、梅雨上りに晴天の日が続きますと、下葉が黄化し、秋の落葉期のような景観を呈し落葉します。
 図ー3 カリの体内移動と欠乏症状の現れる部位

☆葉面散布

 生育のどの時期でも、カリ欠乏の症状を見たら、第1リン酸カリ0.3%液を葉面散布、5〜7日おきに2〜3回します。

☆他の要素との関係

 カリ吸収量が多いと、他の要素が吸収されにくい。

  • カリの吸収や体内移動をたすけている要素・・・ホウソ、鉄、マンガン、等
  • カリの吸収を悪るくする要素・・・チッソ、カルシウム、マグネシウム等

(4)  カルシウム(Ca)について

カルシウムはバラの葉に多く含まれています。これは葉の内部で行われる代謝作用により出来る有機酸を中和するためであります。カルシウムも糖分の移動に関与しています。欠乏しますと、葉で出来た糖分の花への移動 (色素の成分)がさまたげられます。
又カルシウムが欠乏しますと、根の先端の細胞分裂が阻害され、耐寒性が弱く、土壌の乾燥や、湿害の影響が出て来ます。

 カルシウムの欠乏は又土壌を酸性にしますので、土壌の団粒構造が破壊され、通水、通気性が悪くなり、根の伸長が害されます。土壌中の微生物は酸性では減少するため、土中の有機物の分解が悪く、硝酸化成菌の作用が衰えます。

 図ー4 カルシウムの体内移動と欠乏症状の現れる部位

☆欠乏症状の現れ方(図4参照)

  1. カルシウムは移動性の悪い要素であります。欠乏症は葉の先端に近いところが黄白色となり、伸びが止まり、次第に褐変して来ます。
  2. 下葉からの移動がなく、先端葉に行くに従いこの症状がひどくなります。先端の芽は黄色く萎縮して来ます。

☆他の要素との関係

  • カルシウムの吸収を助ける要素・・・リン酸の吸収が良くなり、リン酸と Mg の相助作用が密接となります。
  • カルシウムの吸収を悪くする要素・・・ チッソ、カリ、マグネシウム等、拮抗作用大

☆葉面散布

 塩化カルシウム0.3~0.5%(2,000倍~3,500倍)か、 第1リン酸カルシウム0.3%を新しい葉にかけるように、 葉面散布を数回行います。

(5) 鉄(Fe)について

 鉄欠になりますと、上葉が黄白化しますので、マグネシウムのように、葉緑素の形成に関係があるといわれています。又鉄は体内で、2価鉄(Fe++) と3価鉄 (Fe+++) と相互変化することにより、生体の酸化還元反応に重要な生理作用を行っています。又呼吸作用で、 酸素の運搬をもしています。又チッソ代謝に関与し、蛋白質合成を助けています。欠乏しますとカリと同様蛋白合成が行われないので耐病性も(耐黒点、耐うどんこ)衰えます。

 鉄はカルシウムと同じく、体内での移動性が悪く、 欠乏症は常に新しい葉に現われます。そして生育中いつでも根からの供給が衰えると、新しい葉の中脈や側脈に、緑色が残るだけで、上葉全体が黄白化して来ます。 そのまま放置していますと、それから出る葉は小縮みになり、新芽の伸長が衰え萎縮状態となります。(図5参照)

 鉄欠を確かめる(マンガン欠とよく似ている)ためには、欠乏症の出ている葉に硫酸第一鉄の0.1%液をスプレーするか、筆で塗って、液がついた部分が2〜3日内で緑色を取り戻したら鉄欠と診断します。

 図ー5 鉄の体内移動と欠乏症状の現れる部位

☆他の要素との関係

  1. 鉄が不足するとマンガンが過剰に吸収される。その結果鉄欠症が起る。(拮抗作用)
  2. カリは鉄の移動を助ける。(相助作用)
  3. カルシウムが土壌中にあれば鉄の吸収が押えられる。又リン酸、マンガン、亜鉛、銅等の過剰も、体内移動を阻害する。(拮抗作用)
  4. 葉面散布 鉄は体内での移動が悪く、散布液をあまり濃くせず全面数回散布します。(硫酸第一鉄又は塩化鉄の1〜2%、2〜3回、隔週)
  5. 土壌の過度の乾燥は鉄の吸収が悪く、マルチングを行って、灌水をよくします。鉄欠はリン酸や銅の過剰のとき、気温が低いとき、日照が少ないときなどに起ります。
  6. バラの体内には100ppm内外の鉄分と言われ、この量は土壌中に充分存在し、鉄欠になることはないと言われますが、土壌が中性・アルカリ性になりますと鉄は吸収されなくなります。従って石灰使用には十分注意して下さい。
  7. 鉄剤の使用
    キレート鉄の3,000倍液を1本宛8~10㍑(2〜3g/1㎡ 10㍑)5日毎2〜3回、或はフミン酸系土壌改良剤に硫酸第一鉄かクエン酸鉄(5〜6g/1㎡ 10㍑)を混合灌水します。

参考文献:前田正男編「作物の要素欠乏・過剰症」