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ローズ・ふくおか アーカイブス 1987-4「接木と挿木のことども」

接木と挿木のことども   松岡 初義
昭和62年/1987 No.4 掲載

 10年前からバラを栽培しはじめた。その前から2、3本のバラはあったが、手入れもしなかったのでよい花は咲いていなかった。それがバラ展で初めて綺麗な花に魅せられて、その場でバラ会に入会し、指導も受け苗木も買ったのがバラ栽培の始まりである。

 バラ畑は家の南側と西側のどちらも道路に接した狭い空地だけ。道路側にブロックを3段ほど積んで境として いるが、当初畑側は道路より30cm程高かったが今では40 cm程高くなっている。どちらも日当りだけは申分ない。 ブロックの上には何もないのでブロック越しに道路からバラの手入れをしている。どちらも歩道になっているので手入れ中に車が進入してくる心配はない。手入れには恰好の高さで、まことに都合がよい。

 ところが折角買ってきた苗を指導に従って施肥し高植しておくと、これを夜陰に乗じて根こそぎ失敬してゆく者がいる。中には大先輩の釜瀬さんから戴いた10年以上もたった大木まで失敬されてしまった。今でもバラやフリージャーの花を失敬されることは度々ある。いつだったかバラの花を手折る現場を見付けて詰ると花は盗っても泥棒にはならないとの迷言をはいた。こやつ俺より年下女のくせにと感心しているうちに立去ってしまった。 しかしそうかといってブロック塀を高くする気にはなら ぬ。何とかして盗まれる数以上の苗木を作って補充したいと思ったのが切っ掛け。たまたま大神先生宅で暑い頃研究会があった時、冷たい飲物を戴きながら芽接ぎの実技があった。これだ!こんなに簡単にできるならやってみたいと思った。

 書店に行って関係の本を買い漁った。台木も10種類以上も先輩の方々から戴いた。はじめは近くの山で台木になりそうな野生バラを根こそぎ堀ってきたこともあるが、 刺が多くて閉口した。しかし戴いた台木はあまり刺がな く、成長も早くよいものばかり。今では我が家のバラ畑の2割ほどがこの台木で占められている。切っても切ってもすぐ大きく伸びてくれるので、台木には不自由しなくなった。本当は実生苗の方が活着がよく長寿命で総べてによいらしいが、今は専ら挿木苗を使っている。

 初めの頃は長い台木をそのまま下の方から2葉毎に上端の細い部分まで連続して、1本に40個余りも接木したことがある。この方法で接木すると芽接などは根に近い太い部分では容易であるが、先端になると細いので難かしくなっている。しかし、順次接いでいるとその変化が少しづつなのであまり気にならない。気がついたらもう先端にきていたという感じであった。この方法で長い台木に3本も接ぐと、一応接木の要領だけはわかった。これで活着したものを1芽毎に切離して挿木した。しかしその40個余りも接木し、挿木して完全に出来上った苗は1、2本できればよい方であった。

 その後、小さいポットに挿木して活着した台木に1個だけ接木する方法をとったところ活着率は向上した。こうして8年ほど毎年材料が揃うと接木した。多い時は1年で1,000本を越えた。成績の方はバラツキが多く8割を 越すこともあり、ゼロのこともあった。腕の方は良いと思っているが、悪いときは季節などのせいにしている。

 一時期、スタンダード仕立てに凝って高さ3m近いコ クテールを3年もか」って完成させたが、台風で折れて しまい今は2.5m級のものが2本残っている。高い位置での接木は養分が届き難いせいか難かしいが成木となると下を通っても邪魔にならず、遠くからもよく見えて都合がよい。

 挿木も当初からいろいろやってみた。特殊なものを除いて接木の方が勝っているように思われているが、種類によっては挿木の方がよいものも多い。土中の養分、水分、空気の流通、土中の温度などが大きく影響することは御承知のとおり。条件さえよければ挿木はただ土中に挿すだけだから接木よりずっと楽にできる。

 以下に接木と挿木のやり方のうち、気付いたことを思い出すままに述べよう。

1. 茎の葉が出ている部分(節のようになるので以下節という)は根も芽も出易い特殊な部分である。これはバラに限らず、総べての植物に共通したもののようである。接木は台木の節と節の中間ですると作業は容易だが、活着率は節の部分の方がずっとよい。節のところは少し堅く曲っていて作業はしにくい。
接木は節のあたりに穂木の下端がくるように、挿木は節のすぐ下で切る。これが最も大切な点である。

2. 切接ぎは穂木も台木も先端を直角に切る。狂っているときは切りなおす。台木に穂木を差込み先端をよく 密着させる(芽接も)。そしてビニールテープを各部分が2重巻きになる程度に、もう少しで切れる程強く巻き1回結びで止める。後で巻直しやビニールテープの取外しなど余分な作業はしない。

3. 接木の作業がすんだらビニール袋などを被せ、接面への雨水の侵入や水分の蒸散を防ぐ。台木えの潅水は鉢植でも1週間程しない方がよい。

4. 挿木に使う穂木は節のすぐ下をなるべく直角に近く切る。よく切れる小刀でなければ、ここは堅いので切れない。かといって鋏で形だけ直角に切ったのでは駄目。

5. 挿穂は整形がすめばすぐ植え込むのもよいが、その一団をひと纏めにして土が入らぬように布かビニールで両端から空気が流通するよう2重程度に巻き、これを土中に浅く埋めておく。この際戸外では雨水が入らぬようにする。20日程で切口にカルスができる。これを植込んだ方がよく活着する。しかしミニ種は直接の方がよい。

 こうして我が家ではどうやらバラも植えすぎて困るようになった。今冬は温暖であったせいか、1月末に130本程度接木したが、1ヶ月後の今、1本も失敗したものはなかったのには我ながら驚いている。接木後の管理が面倒なので近所や知人などに早目に配っているが、まだ数年前に作った苗が残っている。良いものは早く片付くが、そうでないものは残る。特に小・中型のスタンダー ド仕立てのミニバラは残ったものが多い。仕事の方が忙しいのでバラ苗の管理ばかりやってはおれぬ。それに近頃はバラ苗泥棒も出現しなくなった。満足する程植えたのか。改心したのか。こちらは予定が狂ってしまった。